とある夜出会ったあいつ 矢崎真名 |
それは、ある夜の小さな出来事です。
ごうごうと、雪の混じった風が吹き荒れる、ある北のほう、雪が降ると孤立する、小さな村がありました。
夜は、とても寒いので、みんな家の中にこもっていました。その日、スノウという名の男の子が外に出たのは、
窓から、人影を見たからでした。用もないのに、誰か外にいるのに興味が出たのです。巣のは寒さにブルッと
肩を震わして、自分の体を抱きしめながら、言います。
「一体、誰が外に出てるんだ?」
スノウは、キョロキョロ辺りを見回します。いつの間にか、雪はやんでいて、月が出ていました。
月の光は明るくて、雪が反射してキラキラ光り、周りがよく見えました。
「えい!えい!」
ふと、スノウの耳に、そんな声が聞こえてきました。近づいていくと、スノウはびっくりしました。だって、
スノウと同じくらいの男の子が、暖かいように厚着をして、ほうきにまたがってピョンピョン飛び跳ねていた
のですから。男の子はあまりにも熱心なので、スノウがそばにいることにも気がつかないようでした。
「一体、何やってるんだ?」
スノウは首を傾げます。それには、もう一つ理由がありました。男の子は、この村の住人ではないのです。
20軒あるかないか、といったところですから、当然、子どもも大人もみんな顔を知っています。スノウが、
どんなにがんばって思い出してみても、この男の子のことは知らないのです。
「なあ、お前何やってるんだ?」
スノウは、思い切って男の子に聞いてみました。男の子は振り返り、スノウを見つけると、にっこり笑い、
「やぁ、こんばんは。」
といいました。スノウはあっけにとられ、どうしていいのかしばらく分らなくなりましたが、
「あ、ああ・・・こんばんは。」
同じ言葉を返しました。そして、もう一度同じ質問をします。
「何してたんだ?」
その質問に、男の子はキョトンとして・・・ほんの少し顔を赤らめて、
「ほうきで・・・飛ぶ練習してたの。僕・・・下手だから。」
言いました。え?とスノウはつぶやいて・・・
「魔法・・・使いなのか?」
指をさして言いました。
「うん、そうだよ。とはいっても・・・まだC級なんだけどね。あ、C級っていうのは魔法使いのランクで、
一番上はAA(ダブル)で、一番下はEなんだ。」
男の子はどこか誇らしげに答えます。スノウは・・・本当に驚いて言います。
「俺、魔法使いってみんな女で、鼻が高くて、怖いもんだと思ってた。」
「でも、僕は男だよ?怖く見える?」
「全然。」
「案外、そんなものなのかもね。」
そういって、男の子は笑います。スノウも苦笑い。
「は?何とかほうきに乗れて飛べたはいいけど、飛ばされてここに流れ着いた?」
どうして男の子がこの村に来たのか、その答えをスノウは反復しました。
「大きな声で言わないでよ。大人には、僕らの存在は秘密なんだから。」
男の子はそういってたしなめます。それは、魔法使いの掟なのだそうです。理由は、男の子にもよく分らない
ようでした。
「お前って本当に魔法使いなのか?」
スノウはたずねました。だって、あまりにも普通のこの男の子が、そんな風に見えなかったのですから。その
言葉を聞いて、男の子はひどく心外そうに、
「信じられないの〜?どうして雪がやんだのかって、不思議に思わない?」
言いました。スノウはえ?とつぶやいて思案します。確かに、ひどく雪風が吹き荒れていたのに、いつのまにか
止んで、こうやって外に出ることができるのですから。スノウは男の子を見ます。
「僕が魔法で止めたんだ。すごいでしょ〜。」
自慢げに笑い、男の子は言います。男の子はポケットからステッキを取り出して、くるりとステッキをまわし、
ポイと空へ放り投げて見事にキャッチ。
「今ここに願う。言葉は言霊となって、現実になる。夜が明けたあと、日が射すだろう。」
男の子は高らかに宣言しました。
「なんだそれ。」
「うわ、ひどいな〜。今魔法使ったのに。お天気操るの、僕得意なんだからね!」
スノウの問いに、男の子は憤慨してそういいました。そんなものかなとスノウは首を傾げます。男の子はプイと
そっぽ向き、いつの間にか下に落としてしまったほうきを持ち上げて、足を大地に蹴り上げます。
すると、どうでしょう。フラフラ不安定ではありましたが、ほうきも男の子も宙に浮いているのです。
「これで信じる?」
まだ怒った口調で、男の子は言いました。
「信じる。」
まいった。とあとを続けてスノウは素直に答えます。その答えに男の子はにっこり笑いました。
「よかったな。ちゃんと乗れたじゃん。」
スノウの祝福の言葉に、男の子はうんとうなずきます。そしてこういいました。
「じゃあ、そろそろ帰らないと。」
といって、さらに高く舞い上がります。そう、男の子の家は、ここから遠いのですから。スノウはほんの少し
さびしそうに下を向き、そしてぱっと顔を上げ、言います。
「なぁ!名前なんていうんだ?俺、スノウ!」
スノウは問います。男の子は、高いところから言いました。
「マク。だよ。」
「また会えるかな?」
「きっと、また会えるよ。・・・じゃあね。」
「うん!」
スノウはうなずいて手を振りました。やがて、マクの姿が見えなくなるまでずっと手を振り続けていました。
マクは、確かに本物の魔法使いです。スノウはそう信じています。
だって、翌日の朝、確かに太陽が昇り、あたりを照らしていたのですから・・・。
おわり**・***・***・***・***・***・***・***・***・***・***・***・** ほうき、不思議、鼻が高い、怖いイメージという人から聞いた魔法使いのイメージから話を作りました。
ほのぼのファンタジーっぽくしたかったんで。
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使用素材:月の歯車