目くるめく蒼い世界。
―――僕はどこ?
狂うほどの蒼い世界。
―――ここは何処?
甚だしくも蒼い世界。
―――今は何?
蒼い蒼い蒼い蒼い蒼い世界。
―――何処からが
蒼い。
―――僕?
嗚呼 世界ガ溶ケテイク 。
―――――――――――――――――――――。
僕は暖炉の前に座っていた。
蒼く揺らめく炎は、静かに猛る。
僕は、自分の足に掛かる毛布をはずす。
古くも慣れ親しんだその柔らかくも固まった感覚が肌に残る。
目を擦ると、乾いた涙が手に染みる。
蒼い結晶はザラザラと感触が悪い。
髪を掻き毟れば、手に絡みつく数本の蒼い髪。
僕はどれくらい眠っていたのだろうか。
おそらくは、世界が色を亡くして
世界が最も悲しい色だけを残したその時から
永遠とも思える時間の墓地に埋もれて
僕は目を覚ました。
世界は蒼一色に染まる。
蒼い太陽は西から昇り。
人々の魂をその色で侵し、悲壮と霧消だけを残していく。
人々は、あの忌々しい太陽が早く東に沈む事を願う。
夜は良い。
蒼すらも飲み込む漆黒は、きっと人々の救いになるのだろうから。
僕は愛が嫌いだ。
今の世界に愛は無い。
どの魂も、消し炭みたいな消しカスしか持ってはいない。
そんな蒼い心は慈愛を忘れ、ただひたすらに自愛を求めている。
僕は愛を信じない。
この世界に愛は無い。
君は喜びを持っているのか?
この世界は喜びを持ってはいない。
遥か昔。
どれほど昔かは分からないが
世界は戦いを止めなかった。
平和の叫びは、轟然たる戦火に掻き消された
火は火を呼び、
憎悪は憎悪に
死は死に連鎖した。
世界は僕たちを裏切った。
死は悲しみではなかった。
生が悲しみだった。
死をもって生まれてもなお、生にしがみつくしかできない事が悲しかった。
死は決して終わりではなかった。
生命は死を選ばないように作られていた。
だから選べない選択肢が空しかった。
世界は無情にも無常だ。
世界は非常に非情だ。
愛する者の死は、人々に蒼い涙を流させた。
狂った悲しみが蒼い涙になった。
世界は泣いた。
そのときは快晴。
悲哀の情緒には似つかわしくもない。
雲ひとつない 蒼い空。
海には波も立たず
苦しくも 蒼海。
ある者は言う。
「あの日あの時、世界はその悲しみの全てを泣き尽くした」
と、
眼球を覆い、
目尻からこぼれ、
頬を伝い、
唇に触れ、
顎に滴り、
宙に投げ出された悲しみは、
全世界の人々が流した悲しみは、
次第に世界を『蒼』に染めていった。
蒼い草木が茂り、山は文字通り真蒼。
土に悲しみが染み込んでは 蒼い土が星を覆った。
虚無が人々の心を蝕み、
侵していく。
冬には蒼い雪が降り
春には蒼い桜が舞い散り
夏には蒼い波が打ち寄せ
秋には蒼い虫の音が悲鳴を上げる。
そして又一年が過ぎ、
また、人々は忘却の泉水に沈む悲しみを掬い上げ、
悲しみに絶えず蒼い涙を流す。
悲しみが悲しくて。
悲しみで流す涙が悲しくて
全てが悲しくて悲しくて悲しくて。
僕は、今頬に感じる不快感が自分の涙だと知る。
頬を拭いても拭いても
僕の目は涙を流す事をやめない。
嗚呼、世界が溶けていく。
世界が
“蒼”一色を残して―――
―――死ンデイク
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