さくらの見た夢







それは、春の日の出来事。





「あのね、夢を見たの。」
学校からの帰り道、桜並木の下。先に前を歩いていた彼女は振り向いて、そう切り出した。
「桜の夢。あ、でもね、何かこことは全く違う世界みたいなんだけど・・・・・・そこにね、満開の桜が一本咲いてたの。それがね、すっごくきれいだったの!!」
楽しげにしゃべる、その夢の内容は抽象的で、具体的に何がここと違う世界なのか、全く説明できていない。中学生になっても説明する力が変わらず下手くそで、僕はついため息をつく。
「だからって、授業中居眠りする言い訳にはならないよ。」
「そうだけど〜。」
軽く彼女の頭にげんこつしつついえば、ふくれ面で返す彼女。そういう仕草も表情もひどく幼いのに、時折儚いような表情を浮かべることもあるアンバランスさ。幼い幼いと思っていても、いつの間に少女から女に変わっていっているのかと、たまにドギマギする。それが複雑でもあり、うれしくもあるけれど、僕に対しても彼女もそう思っているのかは、少々疑問だ。まぁ、それはおいといて。
 そんな、何気ないやりとりの中、風が吹いて、彼女の髪とスカートを揺らす。それと、桜吹雪。
「うわぁ〜〜。」
小さく歓声を上げて、見上げる彼女に何故か、何故か僕は彼女の制服の裾をつかんでいて、名前を呼んでいた。何で、彼女が消えてしまいそうだと思ったのか・・・。彼女は不思議そうに僕を見て、何か問いたげにしていたけど、やがて小さく微笑んで、
「どこにもいかないよ?」
僕の内心を見透かしたように、そういった。






果たしてあれは、桜に見せられた夢なのか、さくらの見た夢なのか・・・・・・・・・とにかく、予感はあった。




「空はどうして青いのかな?土ってどうしてこんな色してるのかな?」
「僕に言われても・・・確か空が青いのはなんかの現象って聞いたけど。」
「それ、夢がないよぉ。」
「現象とかで説明すると、そうなるだろ。」
「味気ないなぁ〜。」
「そう言う辺りが何というか、ズレてるよね、お前。」




 元々どこか浮世離れていた彼女がこの世界から消えたのは、それから数日経ってからだった。








 僕のできうる限りの手段で彼女を捜して、どこにもいない彼女を求めて、噂を元に辿り着いたのは、ある男の元。彼は、僕に現実を突きつけた。彼女は元々、この世界の人間じゃないと。理由までは知らないが、ただ時が来て元の場所に戻っただけだと。もし、会いたいのなら、世界を超えないければ会えないが、ここに戻れる保証はないと。その覚悟はあるのかと。
そんなもの、とうの昔にできている。今更過ぎる。だから僕は、彼女を求めて異世界にわたった。
 それから、数年経ったけど、まだ彼女に会えていない。もしかしたら、彼女は僕のことなんて覚えていないのかも知れない。これは、ただの自己満足だ。ほんの、短い間彼氏だった僕が会いにいってもどうしようもないかも知れない。手がかりも何もない中、広い世界の中たった一人を見つけることは不可能にも近いんだろう。けど・・・・・・・・・もう、決めたことだから。
「さくら・・・見つけて、みせるから。」
こちらの世界に来る前に、唯一二人で撮った写真を眺め、小さくつぶやいて決意を固める。
いつもの儀式。そうして僕は今日も、桜がある以外は何もかも違う異世界で、彼女を求めて旅をする。










「その為に、すべてを捨てても、後悔しないか?」
「もう一度会いたいと願うのは、いけないことですか?」







End

桜×ファンタジーで行こうと思って考えてはいたけど、何でこういう話になるんだろう?私の思考回路って一体・・・

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